特別展「モダン都市の文学誌」みどころ紹介(その4)

みなさん、こんにちは。えどまるです。
たてもの園の特別展「モダン都市の文学誌」の会期も、残すところ10日。
まだご覧になっていない方、見逃さないようお急ぎ下さい〜。
今回ブログで紹介するのは「武蔵野」のコーナー。

作家の横光利一は斬新な文体による作品で、新感覚派の旗手として注目を集めた人だけど、昭和12年に著した「春園」には、武蔵野の一角に居を構えた主人公が、
ヒロインの成長を見守りつつ、東洋的精神と西洋文明の狭間で
自らの生き様を問う姿が描かれているらしい・・・! 

何だか、現代に生きる僕たちも考えるようなテーマだね。

「春園」の背景は、雑木林や麦畑に囲まれた静かな郊外風景で、
登場人物の気持や行動の変化を際立たせる舞台設定になっているとのこと。
これは横光自身が、杉並町阿佐ヶ谷に移り住んだ時の光景を
参考にしたとも言われているんだって。

武蔵野の雑木林は、度々伐採されて薪にされることから、
細くて低い幹が根から何本も生えて、梢越しに空の見える明るい林だったそう。
こちらは哲学者・山口諭助による武蔵野の風景。

「春園」では、ヨーロッパから帰国した主人公が自宅を建て、
新しい生活を送りつつ思索にふける場所として武蔵野地域が選ばれているけれど、
こうしたことが出来るのが都市のとなりに位置する地域の特徴じゃないかな。

たてもの園があるのも、都市のとなりの小金井市。
自然の中に移築・復元された歴史的建造物の見学を兼ねて、ぜひご来園くださいね。

みなさんのお越しをお待ちしています!

特別展「モダン都市の文学誌」みどころ紹介(その3)

みなさん、こんにちは!えどまるです。
今日は七夕、願い事は済みましたか?

たてもの園の特別展「モダン都市の文学誌」も、
たくさんのお客様の来場を心待ちにしているところです。

浅草、銀座と、文学に描かれた町の様子を紹介してきたこのブログも、
3回目を迎えました。今回の特集は新宿。

関東大震災後、東京の郊外には住宅地が拡大します。
そんな中、中央線や山手線が走り、私鉄の始発駅を抱えた新宿は、ターミナル駅としての
役割を担い、西郊への玄関口にふさわしい賑わいを見せるようになったんだって。

この様子を「新宿スケッチ」(昭和4年)で活き活きと写したのが新興芸術派の作家・
龍膽寺雄(りゅうたんじ・ゆう)。こちらは自宅でのスナップ(個人蔵)。

「新宿スケッチ」の冒頭は、大正14年に鉄筋コンクリート造の二階建てとなった
新宿駅の描写で始まります。

 駅の額(ひたい)の大時計、近世ゴシツクのあのコンクリートへ嵌(は)められた時計の文字盤(ダイアル)に、甲虫の様に黒く針が匍(は)つて、それが一と廻りするうちに、二回、――朝と晩とに、規則正しく新宿は、駅にも広場にも街路にも、群集の洪水を溢(あふ)らせる。(「新宿スケッチ」より)
 
龍膽寺は、モダニズム文学の旗手として一躍文壇の寵児となったけれど、
作家としての第一線での活動期間は短く、のち、シャボテンの研究・栽培で
国際的に知られる存在となったユニークな経歴を持っているんだって!

こちらが新宿のコーナ−。

百貨店、映画館、ダンスホールなど、大衆が好んで訪れる様々な施設が建ち並び始めたのが、昭和初期のこの時代。

龍膽寺が文芸部顧問を務めたレビュー劇場ムーラン・ルージュに関わる資料も展示中。
こちらは谷中安規画「街の本 ムーラン・ルージュ」(昭和8年 小野忠重版画館所蔵)

ぜひご来園いただき、今につながる町の活況を、眺めてみてね!
次回は「武蔵野」のコーナーの特集です。